top_logo.gif 報道関係者向けのニュースリリースです。





PRESS
RELEASE
1998

インデックスへ戻る
97年のリリース
96年のリリース

トップページ
何この団体??
パンフをどうぞ





カリブーと気候変動

1998年10月、グリーンピース・インターナショナル
日本語版制作:グリーンピース・ジャパン

前書き

カリブー(Rangifer tarandus:トナカイとも呼ばれる)は、北極とその周辺で最も頻繁に見られる大型陸上動物である。ほとんどのカリブーは北極地方の短い夏の間、子育てのために数万頭から10万頭もの巨大な群れを作るが、それ以外の季節には広大な地域に散らばり、小さな群れで暮らす。
数の多いカリブーは、アラスカとカナダ北西部に住むグウィチン、スカンジナビアとロシア国内の北極地方西部に住むサアミとコミ、シベリアとロシア極東部に住むその他の多数の北方民族の伝統経済を支える基盤としての役割を果たしている。
ユーラシア大陸のトナカイは北米のカリブーと同じ種である。主な違いは、ユーラシア大陸のトナカイでは北米のカリブーよりも、半家畜化した群れとしてまとめられ、守られている例が多いことである。

カリブーは伝統的に北方社会の重要な食糧源だった。毛皮は衣服やテントその他の住まいの材料として使われていた。
今日、グウィチンなどの北極地方の住民は、狩りの獲物であるカリブーに対して民族の象徴としての一体感を抱くと同時に、南から持ち込まれる食品を補う栄養分豊かで、しかも身近に入手出来る「郷土料理」として、カリブーの肉に依存している。
イヌイットは海洋哺乳類のハンターだが、伝統食品の主な供給源としてカリブーに依存している例もよく見られる。カリブーはホッキョクギツネをはじめとする北極地方に生息する肉食動物の重要な獲物でもあり、繁殖地では、ハイイログマやイヌワシの獲物にもなる。*1

カリブーは多数の独立した群れを形成し、別々の場所で繁殖する。北極地方西部の主な群れは、バサースト、ポーキュパイン、北極西部、北極中部、テシェクプク湖の集団である。
グリーンランド西部とカナダの北極周辺の島々のみに分布するピアリーカリブーは、体の色が白くサイズが小さい亜種で、本土の仲間よりもはるかに数が少ない。ふつうのカリブーと異なり、ピアリーカリブーは大きな群れを作らず、各島で小さな群れを作って散在する。


気候の影響

気候変動と気温の上昇がカリブーにとって有害だというのは不思議に思えるかもしれない。カリブーとよく似たシカの仲間は、カナダの針葉樹林からアフリカのサバンナまで、地球上の多様な生息環境で繁栄している。これほど適応力のある生き物に対し、なぜ気温の上昇が脅威になるのだろうか。

カリブーに影響する気候関係の主な要因は雪と昆虫だ。カリブーは厳しい生息環境を生き抜くことができる動物だが、長い北極の冬の間は主な食糧源であるコケと地衣類を懸命に探し、短い夏にはツンドラに生える潅木を最大限に活用しなければならない。長期にわたって食糧探しが困難になるような変化は、カリブーの群れにとって脅威となる。

ほとんどすべての気候モデルが、温室効果による降水量の増加(特に北極地方で)を予測している。*2 北極地方は乾燥しており、年平均降水量は4cmで、そのほとんどが雪による降水量だ。*3 気候モデルでは、大気中の温室効果ガス量が倍増すると、北極の降雪量は30〜50%増加すると示唆されている。*4 雪その他の降水量は、カナダ北西部のマッケンジー渓谷と*5 アラスカの大半で*6 すでに増加している。

カリブーは雪を掘ってコケや地衣類を見つける(クレータリングと呼ばれる行動)。雪の層が薄いか、または所々にしか雪がなければ、一日に必要な量の食糧を見つけるのに数分しかかからないが、雪が深い場合や、雪の上に雨が降って凍り付いていると、毎日約2時間のクレータリングが必要なこともある。
クレータリングの際の一掻きに必要なエネルギーは、固まっていない軽い雪の場合は118ジュール、雪が深く表面が薄く固い氷で覆われている場合は219ジュールである。*7
カナダのノースウェストテリトリーズのコーツ島に生息するグリーンランドカリブーに関する調査では、50〜80cmもの積雪があった特に厳しい冬には、カリブーは積雪が10〜20cmの高地でしかクレータリングを行っていないことがわかった。このような厳しい冬には食糧が激減し、子供の死亡率も上昇する。*8 エネルギー消費量の増加と食糧の減少により、冬の飢餓状態が進行し、春になった時点での体脂肪量が減るため、母乳の出が悪くなり、子供の生存率が低下する。*9 また、冬に雪が深くなると、カリブーの体は雪に沈みがちになるのに対し、体重が軽いオオカミは雪の上で動き回ることができるため、カリブーがオオカミの攻撃に対して弱くなる。*10

夏の間、カリブーはヤナギなどのツンドラに生える潅木を食べ、冬に備えて体脂肪を蓄える。夏は子育てと授乳のための重要な季節でもある。その重要な期間に、蚊や寄生バエなどの虫にじゃまされ、食糧探しの時間が大幅に短縮されることがある。*11
虫の害は気温13度(摂氏)以上、風速6m/秒で発生することがわかっている。*12 虫の害は食糧探しを妨げ、エネルギーの必要量を引き上げる。その結果、夏の気温上昇と虫はカリブーの体脂肪量の激減を引き起こす。*13
カナダとアラスカの北極地方西部の平均気温は、過去30年間に10年あたり最低0.5度(摂氏)の割合で上昇している。これは地球全体の3倍から5倍の速度だ。この温暖化のほとんどは冬と春に起きているが、夏にも気温の上昇が見られる。*14 この温暖化により、虫の害がすでに起きていることが示唆されている。

気候モデルでは、雪溶けが2〜4週間早まることも示唆されている。*15
カリブーは夏に雪が溶けかかった場所を頻繁に訪れる傾向がある。これについては、気温が下がり、風速が増すことで虫が減ったり、あるいはワタスゲが生えるなど、いくつかの理由が考えられる。*16
カリブーの重要な食糧源であるワタスゲは、溶けかかった雪の間から姿を現わした時に最も栄養分が高くなる。その後数日で、栄養価は大幅に低下する。
雪溶けの時期が早まってもカリブーの移動時期がそれに合わせて変わらないと、いちばん栄養価が高い時のワタスゲを食べられなくなる。*17 早い時期の大規模な雪溶けによって虫の害がひどくなることと、食糧の栄養価の低下により、カリブーの群れに加わるストレスが増す。

ポーキュパインのカリブー群のメスに関するコンピュータモデルでは、冬の積雪量の増加と虫の害の増加の相乗効果により、メスの体脂肪量が激減することが予測されている。秋の体脂肪量と春の出産の成功率の間には強い相関関係があり、予測される気候変動により、カリブーの出生率が約40%低下する可能性がある。*18
4種類の気候モデルを検討した結果、冬の積雪の増加と夏の虫の害の激化により、バサーストの群れに悪影響が現れることが予測されている。*19

カリブーの個体数の減少には循環性があり、ある程度は自然に回復する。
たとえば、カリブーの個体数が一時的に減少すると、コケと地衣類が増え、良い条件が戻った時に、個体数が一気に増えることが可能になる。*20 だが、IPCCは気候変動がこのまま続けば、北極地方高緯度地域に生息するピアリーカリブーは絶滅すると予測し、他の研究者同様、他のカリブーの個体数も減少すると結論している。*21

最近の気候変動が、カナダ北極地方の島々に生息するピアリーカリブーの激減をすでに引き起こしている可能性がある。
北極海西部の島々に生息するピアリーカリブーは、1961年の24,320頭から1997年には1,100頭に減少した。これは実に95%の減少である。北極海東部の島々の個体数は不明である。*22
この減少は冬の気温上昇に伴う降雪量の増加と、地表の雪の凍結が主な原因と考えられる。
1973年から74年にかけての冬の北極海の島々での豪雪と地表の雪の凍結により、ピアリーカリブーの個体数は北極海西部の島々で45%、バサースト島で69%減少した。*23 より最近の例では、バンクス島で起きているピアリーカリブーの減少は、積雪量の増加が原因と思われる。*24
1996年から97年にかけての冬の異常高温により、積雪量が増し、地表の雪が凍結したため、ロシア北西端のチュコツク半島では、約1万頭のカリブーが餓死した。*25 同じ年の冬、バサースト島でも、ピアリーカリブーの個体数が激減した。*26


結 論

冬の積雪量の増加と夏の虫の害の激化は、食糧摂取量の減少とエネルギー必要量の増加を引き起こし、オオカミなどの捕食動物に対するカリブーの抵抗力を弱める。
これら予想される影響から、気候変動の継続により、カリブーの個体数の減少と、ピアリーカリブーなどの弱い亜種の絶滅が心配される。

カリブーの減少は、オオカミなどの肉食動物の食糧が減ることを意味し、北方先住民族の経済の伝統的基盤が揺らぐという結果につながる。




*1:Ed Hall, (ed.), 1989. People and Caribou in the Northwest Territories, Government of the Northwest Territories, Yellowknife, Canada.
*2:IPCC Regional Impacts Special Report, Final Draft, Chapter 3, Arctic/Antarctica, p 1. October 1997.
*3:Walter Skinner, et.al., 1995. The State of Canada's Climate: Monitoring Variability and Change, SOE Report No. 95-1, Atmospheric Environment Service, Environment Canada.
*4:Don E. Russell, 1993. "Effects of global warming on the biology and management of the Porcupine caribou herd", in G. Wall (ed.), Impacts of Climate Change on Resource Management in the North, Dept. of Geography, Occasional Paper No. 16, University of Waterloo, pp. 91-97.
*5:Skinner 1995, op.cit.
*6:Bering Sea Impact Study (BESIS), 1996. The Impacts of Global Climate Change in the Bering Sea Region, Conference Proceedings, Girdwood, Alaska, 18-21 September 1996, BESIS Project Office, University of Alaska-Fairbanks.
*7:Steve G. Fancy and Robert G. White, "Energy expenditures by caribou while cratering in snow", Journal of Wildlife Management, 49(4):987-993, 1985.
*8:J.Z. Adamczewski, C.C. Gates, B.M. Soutar, and R.J. Hudson, "Limiting effects of snow on seasonal habitat use and diets of caribou (Rangifer tarandus groenlandicus) on Coats Island, Northwest Territories", Canadian Journal of Zoology 66:1986-1996, 1988.
*9:Caribou birth rates and calf survival rates are very sensitive to female body fat. See Raymond D. Cameron, Walter T. Smith, Steven G. Fancy, Karen L. Gerhart, and Robert G. White, 1992. "Calving success of female caribou in relation to body weight", Can. J. Zool. 71:480-486; and Raymond D. Cameron and Jay M. Ver Hoef, 1994. "Predicting parturition rate of caribou from autumn body mass". J. Wildl. Manage. 58(4):674-679
*10:Janet Brotton and Geoffrey Wall, 1997. "Climate change and the Bathurst Caribou Herd in the Northwest Territories, Canada", Climatic Change 35: 35-52.
*11:Robert H. Pollard, Warren B. Ballard, Lynn E. Noel and Matthew A. Cronin, 1996. "Parasitic insect abundance and microclimate of gravel pads and tundra within the Prudhoe Bay Oil Field, Alaska, in relation to use by caribou, Rangifer tarandus granti", Canadian Field-Naturalist 110(4):649-658.
*12:Noreen E. Walsh, Steven G. Fancy, Thomas R. McCabe and Larry F. Pank, 1992. "Habitat use by the Porcupine caribou herd during predicted insect harassment", Journal of Wildlife Management 56(3):465-473.
*13:Anne Gunn and Terje Skogland, 1997. "Responses of caribou and reindeer to global warming", in Walter C. Oechl, et.al. (eds.), Global Change and Arctic Terrestial Ecosystems, Springer-Verlag, New York, p. 191.
*14:Stewart Cohen (ed.), 1997. The Mackenzie Basin Impact Study, Environment Canada, Ottawa; and BESIS 1996
*15:Russell 1993, op.cit.
*16:Peter G. Ion and G. Peter Kershaw, 1989. "The selection of snowpatches as relief habitat by woodland caribou (Rangifer tarandus caribou), Macmillan Pass, Selwyn/Mackenzie Mountains, N.W.T., Canada", Arctic and Alpine Research 21(2):203-211; and Warren G. Eastland, R. Terry Bowyer, and Steven G. Fancy, 1989. "Effects of snow cover on selection of calving sites by caribou", J. Mamm. 70(4):824-828.
*17:Warren G. Eastland and Robert G. White, 1990. "Potential effects of global warming on calving caribou", in International Conference on the Role of the Polar Regions in Global Change, June 11-15, 1990, University of Alaska-Fairbanks, pp. 460-464.
*18:Russell 1993, op.cit.
*19:Brotton and Wall 1997
*20:Michael A.D. Ferguson, 1996. "Arctic tundra caribou and climatic change: questions of temporal and spatial scales", Geoscience Canada 23(4):245-252
*21:IPCC 1997, Eastland and White 1990, Russell 1993, Brotton and Wall 1997, Gunn and Skogland 1997
*22:Anne Gunn, Frank Miller and John Nishi, 1998. "Status of endangered and threatened caribou on Canada's Arctic Islands", abstract, Eighth North American Caribou Conference, Whitehorse, Yukon, Canada, March 1998.
*23:Ferguson 1996
*24:A. Gunn, 1995. "Responses of Arctic ungulates to climate change", in David L. Peterson and Darryll R. Johnson (eds.), Human Ecology and Climate Change: People and Resources in the Far North, Taylor and Francis, Washington D.C., pp. 90-106.
*25:Jay R. Malcolm, 1996. The Demise of an Ecosystem: Arctic Wildlife in a Changing Climate, World Wildlife Fund Report, Washington, D.C., p. 5.
*26:Anne Gunn, personal communication, January 1998



[以上、1998年10月作成・リリース関係資料]


GREENPEACE JAPAN

グリーンピース
ジャパン
〒160-0023
東京都新宿区
西新宿 8-13-11
N・Fビル2F
Tel. 03-5338-9800
Fax.03-5338-9817
[リリース・インデックスへ] [トップページへ] [このページの先頭へ戻る]





サポーターの皆さま、また、その他ご寄付をいただきました多くの
皆さま、ほんとうにありがとうございます。おかげさまで
私たちグリーンピースは、今日も環境保護活動を続けることができます。


あなたもグリーンピースの活動をサポートしてくださいませんか?