地中海のいけすの中を泳ぐクロマグロ (c)Greenpeace / Gavin Newman
地中海のいけすの中を泳ぐクロマグロ © Greenpeace / Gavin Newman

海は地球上すべての生命体の約80%を育み、豊かな生物多様性を作り出し、地球の生命を支えています。海に囲まれ、その恩恵を受ける日本では、一人あたり平均して動物性たんぱく質の実に約40%を魚介類から摂取しています。

水産資源は本来、乱獲せずに自然が再生産する仕組みの範囲内で利用すれば更新可能な天然資源です。しかし、いまや過剰な漁業や違法な漁業による海洋生態系の破壊が、自然回復のペースをはるかに上回る速度で行れており、食物連鎖の頂点に立ち生態系の鍵であるマグロやタラなど、おなじみの魚の生息数が急激に減りつつあります。生物多様性と同時に、漁業や魚食の未来も脅かされています。

とくに生息数の減少が著しく、私たちの食生活にも大きな影響を与える魚の一つが、大西洋を回遊し地中海で産卵するクロマグロ。このクロマグロの資源を管理するICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)の年次会合が2009年11月9日から15日まで、ブラジルのレシフェで開催されており、その動向を世界の業界関係者が見守っています。

ICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)とは?

ICCATは、International Commission for the Conservation of Atlantic Tunasの略で、アイキャットと発音し、大西洋におけるマグロ類の資源管理を行う国際機関です。世界にある5つのまぐろ類地域漁業管理機関のうちの一つで、スペインのマドリッドに事務局を置きます。大西洋のクロマグロの資源管理はこのICCATの管轄下にあって日本を含む世界46ヵ国・地域の代表が集まり、漁獲量規制や操業規制などの保存管理措置を話し合っています。

ただICCATはこれまでに、ICCATの科学委員会の意見をほとんど聞き入れずに漁獲可能枠を設定したり、設定した漁獲可能枠をはるかに上回る漁獲を容認したりするなど、資源管理機関としての役割を果たしてきているとはいえません。

2009年ICCATの注目点は?

地中海でマグロの保護を訴えるグリーンピースのダイバー (c) Greenpeace / Gavin Newman
地中海でマグロの保護を訴えるグリーンピースのダイバー © Greenpeace / Gavin Newman

絶滅の恐れが大きいとして大西洋クロマグロの国際取引を禁止する動きがあるワシントン条約(CITES:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)締約国会議の開催を約4ヵ月後に控えた今年のICCAT年次会合は、資源管理機関としての機能を証明する限られた大切な機会となります。2010年3月にドーハで開催されるワシントン条約会合において大西洋クロマグロの保護が焦点となることはほぼ確実で、もし今回ICCATの年次会合が例年通り過剰漁業を規制できないまま終われば、大西洋のクロマグロがワシントン条約の管理下におかれる可能性がいっそう高まるでしょう。

・環境保護NGOグリーンピースの主張は?

グリーンピースは、資源状態の悪化が著しい大西洋クロマグロは、乱獲による絶滅を避けるために管理能力の高いワシントン条約により保護される必要があると考えています。資源管理機関であるICCATに対しては、大西洋クロマグロの産卵海域を海洋保護区とし、漁獲能力を持続可能なレベルにまで下げ、科学的知見が遵守される新たな管理体制を作ること、そしてその3つすべての実施が確保されるまで禁漁措置を続けることを求めています。

・ICCAT科学委員会の提案は?

年次会合に先立ち、科学者委員会は10月、産卵能力のある親魚の量が漁業の本格化する前に比べ15%にまで減少している可能性が高いことなどを報告し、大西洋クロマグロの資源量がワシントン条約附属書Tに掲載するにふさわしい状況であることを確認しました。また、10年後にワシントン条約附属書T掲載の適用条件を50%以上の確率で外れ、同条約に縛られなくなるためには、漁獲可能量を0に設定するしかないことを報告し、一時禁漁が唯一の有効な管理措置であることを示しました。

・世界最大のクロマグロ商社の先見は?

科学委員会の会合に先立ち今年9月には、世界最大のクロマグロ商社である三菱商事が、現状は産業の持続性に繋がるものではないとし、ICCATが科学委員会の意見を聞き入れない場合はワシントン条約による管理を支持することなどを発表しています。また、「他の業界関係者の方々にも、同様の行動を検討いただきたい」と呼びかけています。

・日本政府の立場は?

築地市場に並ぶマグロ (c) Greenpeace / Jeremy Sutton-Hibbert
築地市場に並ぶマグロ © Greenpeace / Jeremy Sutton-Hibbert

大西洋でクロマグロ漁を行う主な漁業国は、スペイン、フランス、イタリア、モロッコなど。日本は、遠洋マグロはえ縄船がこの海域で漁業をしていますが、この海域で漁獲されるクロマグロの約8割を消費する最大の輸入国としてICCATの中で存在感を示しています。日本政府代表は、昨年のICCAT年次会合では異例にも科学委員会が勧告する総漁獲枠の大幅削減を支持し、ICCATによる管理体制の強化を主張しました。しかし、その主張は主要漁業国に受け入れられませんでした。クロマグロのワシントン条約による保護に反対の姿勢を示す日本政府にとって、今回のICCAT年次会合はいっそうの正念場となるでしょう。

そもそもクロマグロって?

枯渇が心配されているクロマグロを掲げるライフセーバーたち (c) Greenpeace / Tim Cole
枯渇が心配されているクロマグロを掲げるライフセーバーたち © Greenpeace / Tim Cole

私たちがふだん口にするマグロには、クロマグロ、ミナミマグロ、メバチマグロ、キハダマグロ、ビンチョウマグロの5種類が含まれます。中でもクロマグロは、大きいもので体調3メートル近く、体重は400キロ超にもなり、「本マグロ」とも呼ばれるように寿司や刺身の主役となる高級食材で、世界で漁獲されるクロマグロの約8割が日本で消費されています。

クロマグロは太平洋を回遊するクロマグロと、大西洋を回遊するクロマグロの2つに大きく分類されます。双方とも資源量は減少傾向にあるとされていますが、とくに大西洋のクロマグロは、地中海における産卵海域で、産卵直前の親魚や産卵経験のない幼魚を一網打尽にする破壊的な漁業や違法な漁業が後を絶たず、1974年は約30万トンとされていた資源量が現在8万トン弱にまで減少しています。クロマグロの英語名はBluefin Tuna(青鰭マグロ)で、クロやブルーとややこしいですが、その資源状況は真っ赤なレッドゾーンに入っているのです。

大西洋のクロマグロってそんなに資源状態が悪いの?

地中海でマグロを獲るトルコの漁船 (c) Greenpeace / Gavin Newman
地中海でマグロを獲るトルコの漁船 © Greenpeace / Gavin Newman

大西洋のクロマグロの資源状態は以前から問題視され、たびたびワシントン条約による保護の必要性が議題となってきました。ワシントン条約とは、絶滅が危ぶまれる野生生物の国際貿易を規制することによって対象種を保護する条約。その条約の附属書Iに掲げられた種は、商業目的のための国際取引が全面的に禁止されます。つまり、それだけ絶滅の危険が深刻な種ということで、たとえばアフリカゾウ、マウンテンゴリラ、トラ、シロナガスクジラなどが掲載されています。2009年10月、モナコ公国はヨーロッパの主要国に支持され、大西洋のクロマグロをワシントン条約附属書Tに掲載する提案を正式に提出しました。

これを受けて同月、スペインのマドリッドで開催されたICCATの科学者会議は、産卵能力のある親魚の量が、漁業が本格化する前の15%にまで減少している可能性が高いことなどを報告し、大西洋クロマグロの資源量がワシントン条約附属書Tに掲載するにふさわしい状況であることを確認しました。また10年後にワシントン条約附属書T掲載の適用条件を50%以上の確率で外れ、同条約に縛られなくなるためには、漁獲可能量を0に設定するしかないことを報告し、一時禁漁が唯一の有効な管理措置であることを示しました。

過剰漁業や違法漁業の実態を太平洋で調査したグリーンピースの活動