過去の人為的な二酸化炭素の排出分の影響で、その排出を今すぐにゼロにしたとしても、地球の平均気温の上昇は避けられそうもありません。最新の科学的知見は、気候変動による壊滅的な被害を最小限に食い止めるには、平均気温の上昇を工業化以前(1850年頃)から2度C未満に抑える必要があるとしています(注1)。そのためには排出削減策を直ちに実行に移し、この10年ほどのうちに世界全体の排出量を増加から減少へと転じさせ、2050 年までに1990年比で半減することが求められています。
2007年7月に発生した中越沖地震は、東京電力の柏崎・刈羽原発を直撃し、同サイトにある全7基が運転を停止しました。東京電力は同原発の停止による電力不足分は、火力発電を中心に対応するとしています。2007年度の温室効果ガスの排出量は増えざるを得ないでしょう。
以前にも、東京電力のいくつかの原子力発電所で発覚した不正行為をきっかけに、2002年から2003年にかけて、同社の原発全17基が順次運転を停止しました。また2004年には、関西電力の美浜原発3号機が蒸気噴出事故を起こしたことから、同社の他の原発8基も点検のため運転を停止しました(注2)。これらによる温室効果ガス排出量の増加分は、2003年度は4.8パーセント、2004年度は2.8パーセントと計算されます(注3)。
このように原子力は常に巨大事故のリスクを抱えているため、いずれかの原子炉で事故やトラブルが生じると、同じモデルの炉を一斉に停止し点検する必要がでてきます。事故などによって原発が運転を停止するたびに、バックアップ用の火発の発電量が増すため、二酸化炭素の排出量はいきおい増大します。
また原発は出力を調整できないため、一日を通して常時使われる、いわゆる「ベースロード」電力しか供給できません。需要が大きくなる時間帯の電力は、主に火発が対応しています。原発による「ベースロード」供給は既にほぼ目いっぱいであり、電力需要の大幅な拡大なしには、原発を今以上に増やすのは不可能です。そこで電力会社は、オール電化住宅をはじめ、電力販売量を高めるキャンペーンを展開しています(注4)。しかし電力需要が拡大すれば、「ベースロード」以外の電力供給も増えるため、火発による発電量が増大し、二酸化炭素の排出量も増えます。
実際、1990年からこれまでに原発は18基増設され、原子力による発電量は増えましたが、火発も増設され、それによる発電量も伸び続けています。とりわけ石炭火力による発電量と、それにともなう温室効果ガスの排出量の増加は著しく、2006年度はそれぞれ90年比の3.4倍と2.6倍でした(注5)。
これらから明らかなように、原子力に依存していては、温室効果ガスの確実な排出削減は不可能です。
日本政府は、原発の設備利用率を88パーセントまで引き上げることを前提に、二酸化炭素の排出削減量を見込んでいます(注6)。しかし現実には、2003年度の設備利用率は59.7パーセント、2004年度は68.9パーセント、その後も70パーセント前後です(注7)。2007年度は、柏崎刈羽原発や志賀原発による計画外停止のため、利用率は低くならざるを得ないでしょう。この事実は、原発に依存した二酸化炭素排出削減策が、いかに脆いかを示しています。
現在、日本で稼動している原子炉は2015年までにその半数以上が、2025年までにそのほとんどが運転年数30年を越えます。老朽化による機器や金属、コンクリートなどの劣化は避けられません。経年劣化による事故を防ぐには、より厳密な定期点検が不可欠です。ところが日本政府は、原発の設備利用率を高めるため、定期点検の間隔を長くし、連続運転日数を現在の13ヶ月以内から最長24ヶ月まで延長する方針です。
老朽化が進む原子炉の負担を増大させるのは、「原子力災害」のリスクを高めることにもつながりかねません。こうした安全を犠牲にした方策に対し、原発を抱える地元から反対の声があがっています(注8)。 そもそも温暖化対策が求められているのは、気候変動によるリスクを防ぐためです。目的はリスクの回避にあります。温暖化対策と称して、原子力によるリスクを高めたのでは、本末転倒です(3「原子力の拡大はさまざまなリスクを増大させる」参照)。
国際エネルギー機関(IEA)や日本の国立環境研究所などによる報告書が結論づけているように、温室効果ガスを削減するうえで、もっとも効果的な施策は省エネとエネルギー効率の向上です(注9)。
日本における2005年度の二酸化炭素の直接排出量のうち、発電などエネルギー転換部門が占める割合は30パーセント強と、最大の排出源となっています(注10)。発電に投入された一次エネルギーは、無駄になっている割合が高いことから、温暖化対策にとって、この部門における効率向上がきわめて重要となります。
なかでも原子力発電は、エネルギー効率がよくありません。その発電効率は35パーセントを超えることはなく、残りは廃熱となります(熱のほとんどは温排水として海に捨てられているため、海洋生態系や漁業への影響が問題視されています)。さらに原発の場合、電力の大消費地から遠く離れた場所に立地せざるをえないため、約8%が送電中にロスとして捨てられています(注11)。原発ではこうしたロス、すなわちエネルギーの「無駄遣い」を避けられません。
原発に代表される大規模集中型発電システムにたいし、分散型エネルギー供給システムの場合、必要なエネルギーを需要のある場所でつくり、そこで消費(エネルギーを「地産・地消」)するため、送電ロスを小さくできます。さらにコジェネレーションを導入し、排熱を冷暖房・給湯・蒸気などに有効利用すると、総合エネルギー効率は80パーセント以上に向上するとされ、エネルギー消費と二酸化炭素排出の大幅削減が可能となります。たとえばデンマークでは、電力の50パーセント、地域熱供給の80パーセントが、既にコジェネレーションでまかなわれています(注12) 。
このように分散型エネルギーシステムとコジェネレーションを組み合わせれば、電力需要が現状を維持したとしても、電力部門のエネルギー消費量(すなわち石炭や石油、天然ガスといった一次エネルギーの投入量)を大きく減らすことができます。また熱供給のためのエネルギー消費も減らすことにつながります。
地球温暖化を防止するうえで今求められているのは、エネルギー需要の低減と、エネルギーを無駄にしない効率利用への転換です。原子力は、これらに逆行します(2−1「原子力では温室効果ガスの確実な排出削減は不可能」参照)。
日本政府は原子力を導入した当初から、その拡大を国策と位置づけ、原発や核燃料サイクル施設の立地を進めてきました。そしてパブリック・アクセプタンス(PA: 社会的容認)活動や、さらには電力会社が原発導入によって被る経済的リスクまで、税金で負担してきました。2006年に公表した『原子力立国計画』、2007年3月に改定した『エネルギー基本計画』では、これまで以上の積極的な支援策が示されています。
たとえば現在、電気事業制度の改革が審議されていますが、電力自由化を検討するにあたっては、「今後の原子力発電投資に及ぼす影響に十分に配慮して慎重な議論が行われることが適切」とするなど、原子力に偏重した政策が目立ちます(注13)。また2004年度のエネルギー研究開発予算のうち、その約64パーセントが原子力へ投じられ、自然エネルギー(日本政府はこれを「新エネルギー」と呼びます)へは、わずか8パーセントでした(注14)。
こうした原子力にたいする過度の優遇策は、エネルギー計画の柔軟性を奪い、省エネ技術の発展や自然エネルギー、分散型システムの導入など、本来、地球温暖化対策の主柱となるべき分野の開発と導入を阻害しています。
ウランも化石燃料と同様、有限の資源です。そこで原子力発電を導入した国々は、当初、使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、それを高速増殖炉の燃料として利用する計画でした。高速増殖炉のなかでは、燃料に使った以上のプルトニウムが生成されていきます。そうすることで核分裂エネルギーを何千年間も利用できるとの喧伝がなされてきたのです。
しかしほとんどの国が、プルトニウムを燃料に使う「再処理―高速増殖炉」路線から撤退しました。コスト、放射能汚染、放射性廃棄物、プルトニウムの拡散リスク等々の負担が、ウラン燃料とは比較にならないほど大きくなるためです。
ところが日本だけは、同路線を国のエネルギー政策と地球温暖化対策の要に据え、その開発に巨額の国家予算を投じ続けています(注15)。とはいえ日本政府の見通しでも、高速増殖炉サイクルが現行の軽水炉サイクルに取って代われるのは、早くて来世紀です(注16)。しかも今の技術では、プルトニウムの有効な増殖は見込めないことから、「無尽蔵のエネルギー」源にはなりえません。
核融合エネルギー発電も同様です。人類が核融合エネルギーを得るには、重水素(D)と三重水素(T)が反応する「D-T反応」を利用するしかありませんが、この反応で発生する強烈な中性子に長く耐えうる資材は、今のところ、地球上には存在しません。また核融合は、三重水素などで汚染された大量の放射性廃棄物を生み出します(注17)。可視的な将来において、商業規模の核融合炉を建設するのは不可能ですし、核融合エネルギーが主要な電力源になることもありえません。つまるところ、核融合で巨大なエネルギーを生みだせるとしたら、熱核兵器の爆発だけです。
近年、気候変動抑止における原子力発電の有効性をめぐり、世界中で議論が続いています。しかしプルトニウム利用(すなわち再処理と高速増殖炉)や核融合は、具体的な対策として議題にさえのぼっていません。核融合炉はもとより高速増殖炉にしても、その実用化は机上の計画にすぎず、100年以上たっても実現可能かどうかさえ定かでない「夢の原子炉」では、喫緊を要する地球温暖化対策になりえないからです。このような非現実的な技術の開発に、貴重な時間と巨額の税金を投入している余裕は、もはや残されていないのです。
日本政府は温暖化対策として「原子力の着実な推進」を掲げています(注18)。しかし原子力によって火力発電分の代替をさらに進めるのは、前述のように不可能です(2−1「原子力では温室効果ガスの確実な削減は不可能」参照)。
現在、日本には55基の原発があります。原子力の割合は総発電電力量の約30パーセント、一次エネルギー供給の約10パーセントです。将来の電力需要を横ばいと仮定しても、既設分の原発を建て替え、火力分(総発電電力量の約60パーセント)を原子力で置き換えるとしたら、145基(100万キロワット級、設備利用率70パーセントと仮定)が必要となります。2050年までにこれを達成しようとするなら毎3〜4ヶ月に1基が送電 ―― 建設ではなく―― を開始しなければなりません。
世界全体では、発電用原子炉数は2003年末で434基です。それらは総発電電力量の16パーセント、一次エネルギー供給の6パーセントを担っているにすぎません(注19)。原子炉の寿命を40年とすると、2025年までに半数以上が、2050年までに全てが操業を停止し廃炉へ向かいます(注20)。一方、火力が総発電電力量に占める割合は66パーセントです。先と同じ条件で、既設分の原発を建て替え、火力分を原子力で置き換えるなら、およそ2230基が必要となります。2025年までにこれを達成しようとするなら毎週2〜3基が、2050年までなら毎週1基が、送電を開始しなければならないほどです。
もとより火力発電分の全てを原子力に置き換えるのは不可能ですが、では二酸化炭素の排出削減策として、原子力がある程度の効果を担えるようになるには、今後、どのくらい拡大する必要があるでしょうか。ひとつの試算では、原子力発電による発電電力量が2050年半ばまでに世界全体で700ギガワット(700,000,000キロワット)まで拡大すれば、15パーセントほどの削減効果をもつとされます(注21)。これを達成するには、100万キロワット級原発(設備利用率を100パーセントと仮定)が700基必要であり、そのためには今後50年のあいだ、毎4週に1基が送電を開始しなければなりません。既設分の建て替えを加えると毎2〜3週に1基となり、その達成はおよそ不可能です。
さらには原子炉だけでなく、ウラン濃縮工場、燃料加工工場、放射性廃棄物貯蔵施設、最終処分場、選択によっては再処理工場やプルトニウム貯蔵施設、プルトニウム燃料加工施設などの一連の核施設も増やす必要があります(注22)。これらにかかるコストと時間は、たとえば原子炉だけをとってみても、そのコスト(1基あたり数千億円)、設置計画から操業までに要する時間(ほとんどのケースで10年以上)、国によっては高圧送電線をはじめとするインフラの基盤整備や核拡散防止措置の強化など、膨大なものとなるでしょう。また事故や放射能汚染、そして核拡散やテロの危険性をはじめとする原子力特有のリスクが高まります(3「原子力の拡大はさまざまなリスクを増大させる」参照)。
いずれにせよ、二酸化炭素の排出量を減少へと転じなければならないこの決定的な10年間のうちに、原子力が果たせる役割はありません。
2005年に国際原子力機関(IAEA)が実施した世論調査によると、日本国民の76パーセントが原発の増設に反対しています(注23)。2007年7月の中越沖地震以降、世論は原子力に対しますます厳しくなっており、また前述のように電力需給バランスからみても、これ以上の増設は難しいでしょう。
そのため日本の原子力産業は、ビジネスと技術の維持のために、アジアをはじめとする途上国へ原子力技術を輸出しようと計画し、日本政府も「地球温暖化対策につながる」として、それを積極的に後押ししています(注24)。
京都議定書は、海外で実施した事業による排出削減量を、投資国の削減実績とみなす仕組みを設けました。そのひとつが「クリーン開発メカニズム(CDM)」です。ただし原子力発電は、その対象にはなっていません。日本政府は、次期の枠組みで原子力をCDMに加えるよう働きかけを強化する方針です(注25)。そうすることで原発輸出に向けた基盤整備への投資を国内企業に促し、原子力産業が海外に進出しやすい環境をつくろうとしているのです。
しかし途上国への原子力技術移転は、非効率的なエネルギーシステムを輸出することに他なりません。原子力はその特性から、数十年先まで見据えた立案が不可欠なため、原発を盛り込んだエネルギー政策がスタートしてしまうと、その見直しが難しくなり、エネルギー多消費型の社会が築かれていきます。これは日本をはじめ原発先進国が経験してきたことです。また前述のように、出力調整用やバックアップ用電源として、火力発電所も確実に増えます。
したがって途上国へ原子力発電を普及させることは、温室効果ガスの排出削減にはつながらないでしょう。普及すべきは、自然エネルギーを中心とする分散型エネルギーシステムや、エネルギーの効率利用を向上させる技術です。
気候変動が現実的な脅威となってからというもの、ヨーロッパを中心に、世界中で自然エネルギーが急速に伸びています。これらのエネルギー源は二酸化炭素をあまり排出しないからですが、それだけでなく、設置にかかるコスト面や時間の面でも、原子力より有利だからです。さらにエネルギー自給率を高め、地域産業を育成し、新たな雇用を創出するなど、多くのメリットが期待されています。
自然エネルギーは今日もっとも成長著しい産業のひとつです。なかでも風力発電の設備容量は、ここ数年、世界全体で年率30パーセント以上の勢いで伸びています(注26)。
そのトップを走るのがドイツです。1990年代、自然エネルギーの市場導入を拡大する法が制定されると爆発的な風力発電ブームが起こり、2006年には電力の5パーセントを供給するまでに成長しました(注27)。ドイツ政府は2020年までに、これを少なくとも20パーセントまで引き上げること、また自然エネルギー全体では、電力の26パーセントを供給することを目標としています(注28)。これまでの実績からその達成は確実視されています。同国の原子力法は原発の段階的廃止を定めていますが、原発による電力供給分(現在、約30パーセント)は、省エネと自然エネルギーで十分に代替できるでしょう。
ドイツと同じような政策を導入することで風力発電を伸ばした国々には、たとえば米国、デンマーク、スペイン、インドがあります。このめざましい市場拡大によって、風力発電コストはここ数年で20パーセントも低下し、国によっては従来の電力源と競合できるほどになりました(注29)。
太陽光発電の累積設置量でも、ドイツは日本を追い抜き、2005年、世界一に躍り出ました。これも自然エネルギー導入促進政策の後押しによるものです。
一方、原子力をエネルギー政策と地球温暖化対策の中枢に据える日本では、電力販売総量において今後増やす自然エネルギーの利用義務量は、現時点で1.35パーセント、2014年度時点での目標も1.63パーセントと、著しく低くなっています(注30)。
ドイツなどの事例からも明らかなように、自然エネルギーの導入はきわめて現実的な選択であり、その普及は技術の問題ではなく、政策の問題です。
核施設の事故が他の事故と大きく異なるのは、そのほとんどにおいて、放射能の放出をともなうことです。稼働中の一般的な原子炉のなかでは、ヒロシマで炸裂したウラン爆弾のおよそ1000倍 もの「死の灰」(核分裂生成物)が蓄積されていきます。そのため放射能を大量放出するような事故が起きると、人、環境、社会、経済などが強いられる被害の規模は、桁違いに大きくなります。
チェルノブイリ原発事故は、北半球全体を放射能汚染しました。被災者は700万人を越えると考えられています(注31)。事故に起因するがん死については、研究者によってその評価に開きがあります(注32)。2005年、IAEAや世界保健機関(WHO)などで構成されるチェルノブイリ・フォーラムは「これまでに確認された死者と予測されるがん死を合わせて最終的に4000人」ときわめて低い見積もりを発表しましたが、これは対象集団の範囲を著しく狭めた結果です(注33)。一方、たとえばグリーンピースは9万3000人と予測しています(注34)。
放射能をともなう事故の被害は、がん死者数だけで評価できるものではありません。被災地域では若年層のあいだに甲状腺がんの増加が確認されているほか、さまざまな心身への影響が報告されています(注35)。生き残った人々も、事故による直接的、間接的な影響を抱えながら、その生涯を送ることを余儀なくされているのです。
こうした深刻な事故が世界のどこかで再び起きるリスクは、原子力発電が拡大されれば、さらに高まります。日本のような地震多発地帯では、地震や津波に起因する事故リスクも無視できません。人間がつくりだした放射能による被害者を、これ以上増やさないためにも、原子力に頼らないエネルギー政策を一日も早く立案し、実行に移すべきです。
途上国の多くは、これから本格的にエネルギーシステムを構築していきます。一方、先進国は、老朽化した建築物や発電所などを建て替える時期にさしかかっています。したがって、今、どのようなエネルギーシステムとエネルギー源を選ぶかが、地球温暖化対策にとって、きわめて重要です。数あるエネルギーの選択肢のなかで、私たちが原子力を支持しない理由のひとつは、原子力の利用によって発生する放射性廃棄物は、生命に悪影響を及ぼし、なおかつそれが長期にわたるからです。
原発の使用済燃料の中には膨大な量の放射能が含まれています。原子炉や再処理工場をはじめとする機器や建物も、運転が終了すれば巨大な放射性廃棄物になります。原子力を導入した国々は、いずれも廃棄物の管理・処分を後回しにしてきました。とくに高レベル廃棄物(使用済み核燃料、高レベルガラス固化体)については、日本を含め、ほとんどの国で最終処分場の目処がたっていません(注36)。
日本政府の計画では、高レベルガラス固化体は最終的に地下に埋め捨てられることになっています。それらに含まれる放射能の害をすべて無視できるようになるには、数千万年以上かかるでしょう。その間に大地震や地層の隆起といった地殻変動が起きないとは断言できませんし、地下水の汚染も懸念されます。
再処理で発生する高濃度の高レベル廃液は、ガラス固化されるまでのあいだ、再処理施設内のタンク(貯槽)に保管されます。六ヶ所再処理工場の場合、高レベル濃縮廃液用タンクの容量は合計410立方メートルです(注37)。高レベル濃縮廃液のタンクが満杯状態のとき、そのなかには使用済み核燃料820トン・ウラン(100万キロワット級原発7〜9基分に相当)に含まれる放射能の99パーセント以上が溶け込んでいると計算されます(注38)。
タンクは、常に冷却、撹拌、掃気が必要です。地震などのために電源を喪失すると、爆発にもつながりかねません。1957年、ロシアの南ウラル地方にある再処理工場で、タンクの冷却機能が故障したために、高レベル廃液の温度が上昇し爆発しました。おびただしい量の放射能が環境中に放出され、およそ23,000平方キロメートル(青森県と岩手県を合わせた面積にほぼ相当)を汚染しました。高濃度汚染地域は、50年を経た今でも立ち入りが制限されています(注39) 。
六ヶ所核燃料サイクル施設の付近には、三沢飛行場(米軍、自衛隊、民間航空の共用)があります。同施設に戦闘機や航空機が落下すれば大災害は免れません。また想定を超える地震に、高レベル廃液タンクがどれほど耐えられるのかも不確かです。
原子力を拡大するということは、きわめて厄介な放射性廃棄物を増やし続け、後世に危険を押しつけることに他なりません。私たちは、このような無責任な「地球温暖化対策」には賛成できません。
原子力の拡大は、世界の安全保障を脅かす大きな要因となります。核開発の歴史をみれば明らかなように、原子力発電は核爆弾をつくる工程の副産物です。その基本的な原理、原料、工程は同じです。多くの国々が、原子力発電のための設備と技術を導入し、多数の科学者や技術者を養成し、大量の核物質を保有したならどうなるでしょう。専門知識と技術を習得した国家や集団が、これらの設備や物質を使って核爆弾を製造する可能性は否定できません。これは過去の核兵器拡散の歴史が実証しています。
プルトニウムや高濃縮ウランだけでなく、低・中・高レベル廃棄物をはじめとする放射性物質も兵器の材料となります。放射性物質と火薬を組み合わせたものは放射能爆弾と呼ばれます。このように原子力発電の普及と核・放射能爆弾の拡散は、切っても切れない関係にあります。原子力発電を拡大すると、保障措置や核物質防護を強化しなければならず、そのためのコストや人員も増大します。また市民的自由も制限せざるを得なくなるでしょう。何よりも、核施設や核物質を標的とする武力攻撃やテロを、世界中で日常的に警戒しなければならなくなるでしょう(注40) 。