国連の気候変動枠組み条約(1992)は「危険な気候変動」を回避するという目標を掲げている。私たちがすでに大気中に出してしまった温室効果ガスによって、産業革命以降1.2℃〜1.3℃の世界平均気温の上昇は免れない。気候変動に対する政策は世界の平均気温の上昇を2℃未満に抑えることを目的としていなければならない。おそらくそれでも気候変動の被害を受ける人々は世界中で多数発生することが予想されるが、これが達成可能なぎりぎりの数値だろう。

2℃の平均気温上昇

  • 数千万人が食糧不足に陥り、数億人がマラリアの危険に晒され、数百万人が洪水の、そして数十億人が水不足に陥る恐れがある。
  • 最も大きな被害を受けるのは最も貧困で苦しむ途上国だ。特に、サハラ砂漠以南のアフリカ、アジア南部、東南アジアの一部、中南米などである。
  • 大規模な氷の融解が起こり、今後数世紀にわたって海面が数メートル上昇する危険がある。特にグリーンランドの氷が融けた場合、海面は7メートル上昇し、南極大陸西部の氷が融けると5〜7メートルの上昇が想定される。グリーンランドの氷はすでに急速に融解し始めている。南極大陸西部でも氷河の融解が始まったことが確認されており、大規模な氷床の崩壊の前兆である可能性もある。
  • 大規模な氷の融解による海水位の上昇は、世界のいたる所で多くの人々の生活を脅かす。特に、バングラデシュ、中国南部など、途上国の海抜が低い地域が最も危険に晒される地域だ。海抜の低いヨーロッパのベルギー、オランダ、ドイツ北西部はいうまでもない。
  • 地球全体の生態系が危機に晒される。
  • 森林の減少とそれに伴う種の絶滅は、あらゆる人々に経済的損失をもたらす。低所得者や途上国ほど大きな損害を受ける。

平均気温の上昇を2℃以下に抑えることができれば…

  • サンゴ礁への被害を軽減できる
  • 地球全体の生態系への被害を軽減できる
  • 今後数世紀にわたる海水位の上昇と上昇の早さを押さえることができる
  • グリーンランドにある氷床の崩壊の危険性を軽減することができる
  • 南極大陸西部の氷床が崩壊するリスクを軽減することができる
  • 食糧/水不足、疫病の発生リスクは、将来の経済成長や豊かさを考慮した場合、気温が高くなるほど高くなると考えられる

では、どうすればいいのか?

  • 地球の平均気温の上昇を産業革命前のレベルから2℃未満に抑えることは、技術的にも経済的にも科学的にもまだ可能だ。しかし、時間の制約はかなり大きい。私たちは、あと10〜20年で、既存の技術で問題を解決することは不可能になってしまうだろう。
  • 温室効果ガスの増加に対する「気候感度」とは二酸化炭素換算の値をppmで表した産業革命以前の大気中二酸化炭素濃度が2倍になった場合の気候系が示す温度の変化のことである。産業革命以前の二酸化炭素濃度はおよそ270 ppmで、現在はおよそ379ppmである。550ppmまでと倍増した場合の気候システムの反応に関する中間推定値は2.5℃の気温上昇になる。このことから、最も妥当な数値として「気候感度は2.5℃だ」と言うことができる。
  • ところが、最近の研究では気候感度は3.2℃に近いことが明らかになった。つまり、予想される温室効果ガスの排出増に対する気候の反応は、これまで予想されていたよりもはるかに急激に起こりうるということだ。したがって、平均気温が2℃上昇することに伴って起こると想定される災害を回避するためには、さらに早急に徹底した対策をとらなくてはならないということだ。厳密に言うと、温室効果ガスの大気中濃度を400ppm未満で安定化させること、そしてできる限り早急にその数値をさらに下げなくては、世界平均気温の上昇を2℃未満に抑えることはできないということだ。
  • この目標値に達するためには、温室効果ガスの大幅な削減が必要だ。それも今すぐに。法的、道義的、そして現実的にも、最初の責任は工業国が担うべきだ。工業国が2020年までに1990年(京都議定書の基準年)比で30%以上の削減を達成し、今世紀半ばまでに75%以上の削減を達成することだ。
  • 全世界的には温室効果ガスの総排出量を2020年までに1990年のレベルにまでに戻し、今世紀半ばまでに50%削減しなくてはならない。したがって、中国、インド、メキシコ、ブラジル、南アフリカ、インドネシア、マレーシアなどの現在急速に工業化の進んでいる国々は、すぐに排出量の削減を始めなくてはならないということだ。
  • 排出量削減を先送りすることのツケは、2020年代に深刻な地球規模の危機として降りかかる。そのときになって初めて排出削減を実行すると、これまでの歴史を振返るならば、ソビエト連邦崩壊のような、経済を崩壊させてしまうほどの大規模な削減でなければならないことになる。「経済の崩壊を選ぶか、気候変動による大災害を選ぶか」という二者択一という状況は回避しなくてはならない。そのような状況になれば、おそらく二つはほぼ同時に起こるだろう。今すぐ対策を取るならば、そのような事態を回避するチャンスはある。
  • アメリカの参加が早急に実現されなくてはならない。このままアメリカがこれまでと変らない道を進めば、2025年にはその他の工業国が最大限努力しても事態の改善は不可能になる。