氷河とは陸地を緩やかに滑降する、大きな氷塊のこと。 伝統的に氷河と言う場合、少なくとも面積が1平方キロメートル以上のものを指したが、この数十年間数多くの名のある氷河は融解してしまったために、現在はその大きさに満たないものが増えてきている。 しかし小さくはなっても、それらの氷塊は現在でも氷河の変動現象を解明するための研究対象とされている。
氷河は、或る特定の地理的、気象条件の下でなければ存在しない。 ほとんどの氷河は冬季の積雪量が多く、夏季の気候が寒冷な場所に存在する。 この条件を満たすのは、極地圏と山岳地帯である。 このような条件の下では、冬に降った雪は夏の間も融けずに残る。摂氏0度を少し下回る平均気温を保っている地域では、積雪の度に氷河は成長する。積もった雪は融けることなくゆっくりと固まって、大きな氷の塊を作るのである。
ひとつひとつの雪の結晶は積もる雪の重みで圧縮され、やがて岩塩とほぼ同じ大きさの氷の結晶に変質する。 氷の結晶が徐々に大きくなるにつれて、雪の中の空気は押し出され、やがて平らな氷の塊が形成されてゆく。 そして圧縮された氷は厚みを増してゆき、厚さおよそ18メートルで臨界質量に達し、氷は水分を含んだ粘土のように変形し動きはじめる。 巨大化した氷塊は地球の引力、すなわち自重によって押し出され、緩やかに流れ下る。
氷河の下層部は氷の底にある岩盤が流れに対しての抵抗になることから、表面の氷よりもゆっくりと流れる。 流動する氷塊は巨大なスクレイパーとなって岩盤の表面を削り、岩の破片や土壌の堆積物を元の場所から移動させる。 岩を含んだこのひょうれき氷礫という土壌は、氷河の流れと共に運ばれ、しばし山腹などに引っかかって氷河の流れから外側に押し出され、氷堆石/モレーンとして残ることもある。
通常、氷河が後退して露出した土壌は、氷河の侵食によって堆積物が削られてしまって、モレーンと氷河擦痕以外ほとんど何も残っていない。 気温の上昇による溶解、蒸発、風化は氷河の消耗、削摩あるいはアブレーションといい、氷河の自然な季節サイクルの一部である。 積雪と消耗がバランスを保っている限り、氷河の総量は維持される。 しかし、氷雪の消耗が積雪を上回ると、氷河は面積、体積共に減少し、後退をはじめる。
世界の多くの地域では、氷河の融解水は表層水と地下水の重要な供給源のひとつになっている。 多くの温帯気候地帯と幾つかの熱帯気候地帯では、氷河の融解水は生態系を支え、水力発電を維持し、工業用水、灌漑用水、飲料水としての役割を担っている。 氷河の氷は通常比較的ゆっくりと融ける。 それゆえ安定的な水の供給源となる。
過去60年から100年の間、世界中の氷河は継続的な後退現象をみせている。 特に、極地の氷河よりも比較的規模も小さく、不安定で変動しやすい山岳氷河は気候変動に敏感に反応している。 山岳氷河の世界的な消滅現象は、すでに氷河を取り巻く自然環境と人間環境への影響をみせはじめている。 幾つかの乾燥地帯はすでに長期的な渇水状態に突入した可能性もある。2
「個別の調査結果と地球規模の現象との因果関係を疑問視する声は相変わらず存在するが、継続的な氷の消滅現象が世界的に起こっていることは、こんにち疑う余地はない。 …この現象の原因の大部分は人為的な作用によるものである。 現在の傾向がこのまま続くか、あるいは悪化することになれば、来たる世代には多くの山々から氷河が消えてなくなるであろう。」3
2002年8月7日